何十年ぶりの夢語り

私は東を向いて夕方の道を歩いていました。道の右側には平坦な畑が広がり、家が点在しています。左には背後に山林を背負って農家が所々に見えます。ここはどこだか分かりません。右前方の畑の先に小さな城郭のような建物が少しだけ見えました。城址ならっちょと寄ってみたいと思いながら道を進むと、一軒の立派な農家の前に通りかかりました。門口には一本の松の木があります。もう今日の宿を探さなくてはと、その家を訪ねると、多分主の夫妻が出てきたので宿の教えを請うと、「この辺じゃあ宿屋なんかないよ。うちの子供の部屋が空いているから、そこに泊まったら……」と云ってくれました。見ると、母屋の右側に付属する建物が見えます。多分そこのことかなと思いました。でもなぜかわかりませんが、多分お礼でも言ってその先へ歩みを進めていました。

少し行くと左側に地区の施設らしい小さめの建物があり、その前に数人が語らっているようです。そこから何分も歩かないうちに左側へ曲がる道があったのでその道を進みました。それは集落の背後の山林の先には鉄道が走っていて、駅の周辺には店舗もあるだろうと思い曲がったのです。また、大きな道路も通り、更に川が流れていると知っていたからです。曲がって直ぐ左側に大きな古い家がありました。大きな長屋門があり母屋は茅葺きの大きな建物です。人影は見えません。もう少し歩けば線路に……。

これは先日私が見た夢です。夢語りというそうです。私は記憶する限りでは何十年も夢を見たことはありません。いや、見ているのでしょうが、記憶している夢は何十年もないのです。この日は、たまたま寝過ごして起こされたのです。きっと夢を見ていたのは、起こされる直前までだったのでしょう。それで珍しく記憶に残っていたのでしょうか。何十年ぶりの夢にちょっと驚いて、忘れないように直ぐにメモを取ったのです。

記憶にはありませんが、多分晩秋の感じがします。そういえば自動車や自転車も見かけない静かな農村のようでした。こんな場所が過去の生活の中にあったのかと思い返してみました。山林を背負った農家や旧家は過去の記憶に似たようなものはあったしょうが、全く同じではなさそうです。その農家の背後に鉄道という記憶はありません。夢ではその電車も線路も出てきませんでした。城は旅で訪ねたことのあるどこかの建物なんでしょうか。郷里で通りかかった風景の断片が混ざり合って綴られたような気もしないでもありません。

夢とは何かと様々な分野の学者が研究されているそうですが、門外漢にはさっぱり分かりません。「睡眠中あたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心像のこと」「生理学的には夢は睡眠過程にともない中枢神経内部の興奮性の低下のために脳内諸領域の興奮が広い範囲に伝えられない状態にあり……統一化された活動状態が解体し、解離の状態においての表象活動である」などと事典などにはありますが、なんのことかさっぱり分かりません。私が思うには、過去の記憶の断片がいろいろな形に変化したりしてつながりわあわさるのかなという気がします。

夢から何か知りたいという要求に応える夢占いがあるそうで、私の夢はどういう意味があるのかちょっと覗いてみました。食べる夢は、必要な何かが不足している状態、追いかけられる夢は、追いつめられた状況や心境、思いどおり飛べない夢は健康上の不安、低空飛行している夢は精神的疲労、鳥のように飛んでいる夢は吉夢、浮く夢は現実逃避……様々な見方がありました。      
では私の夢はどうでしょうか。宿を探しているのは何かの不安かな? 道を辿っているのは旅に出たい心の表象ーーこれは私の願いにぴったりです。ほかにどんな占いが出来るのでしょうか、わたしにはそれほどの興味はありませんが。

庭の片隅にハナニラが咲き出しました。原産はアルゼンチンで、明治時代に日本に入ってきたそうです。
葉にニラのような匂いがするのが名前の由来とか。

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