更科姨捨月之辨
芭蕉
あるいはしらゝ・吹上ときくにうちさそはれて、ことし姨捨の月みむことしきりなれば、八月十一日みのの國をたち、道とほく日数すくなければ、夜に出て暮れに草枕す。思ふにたがはず、その夜さらしなの里にいたる。山は八幡といふさとより一里ばかり南に、西南によこをりふして、
冷
(
すさま
)
じう髙くもあらず、かど/\しき岩なども見えず、只哀ふかき山のすがたなり。なぐさめかねしと云けむも理りしられて、そゞろにかなしきに、何ゆへにか老たる人をすてたらむとおもふに、いとゞ涙落そひければ
俤は姨ひとりなく月の友 ばせを
いさよひもまださらしなの郡哉 同
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