山桜散る勿来の關へ
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勿来駅に降り立つと、八幡太郎義家像と義家が「陸奥国にまかりける時、勿来の関にて花のちりければよめる」歌碑がお出迎えしてくれる。「風も来るなかれという関所なのに、道が狭くなるほど散り落ちる山桜だなあ」こんな歌意かな。 | |||
勿来の関の門。ここから詩歌の古道が始まる。 | 奥州勿來關跡。駅から車5分。ここはいわき市。 | ||
もと菊多の關と呼ばれ千五百年前に設置され… | 再登場の義家。何回もこの関を通ったことだろう。 | ||
いかにも古びたささやかな10m程離れた二つの宮の間が関東と奥州の境だった。(『関所』大島延次) | |||
源義家碑 吹風遠那古曾能關登…(吹く風を勿来の關と…) ちよろずのあだにむかへるもののふの はなさそふかぜはすべなかりけり 県主季鷹 |
みちのくの勿来へ入らむ山かひに 梅干ふゝむあれとあがつま 斎藤茂吉 1915年8月、茂吉33才の時、新婚の妻とともに旧友の故長塚節をしのぶ旅の途中に詠む。 |
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九面や潮満ちくれば道もなし ここを勿来の關といふらん 飛鳥井宗勝 |
東路はなこその關もあるものを いかでか春の越えて來つらん 源師賢 |
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いかにも時代を感じさせるような路が嬉しい。一面に散り敷く桜を踏まないで通るなら、まさしく「みちをせにちる」というのだろう。 | |||
物竢人而著 人依物以名 常奥境關称勿來 山逕櫻華弄春晴 将軍義家討叛賊 … 筒井憲 |
なこそとは誰かは云ひしいはねとも 心にすうるせきとこそみれ 和泉式部 |
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みるめ刈る海女の往来の湊路を 勿来の関をわれすえなくに 小野小町 |
名こそ世になこその関は行きかふと 人もとがめず名のみなりけり 源信明 |
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何桜かはわからないが、ここには染井吉野を初めとして何種類もの桜が植えられているんだ。 | |||
風流のはしめやおくの田植うた はせを 芭蕉は奥の細道の途上、白河と念珠の關は越えたが勿来は越えず。 |
吹く風をなこその關とおもへとも……。 桜の名所も後に絶えたので、義家の遠孫が大正末期に数百本植樹 して遺跡を顕彰…… |
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義家神社。いつ祀られたのか。各地に義家を祭神とする神社がある。義家は源氏の本流に繋がる家系の祖。曾孫に義朝、為朝。義朝の子に頼朝、義経。更らに足利、新田… | 海から1.5km程離れた標高70m余の山道に関を設けたのだろうか。「潮満ちくれば道もなし ここを勿来の關といふらん」海女も往来する海岸沿いの6号国道辺りの方が……。 | ||
勿来の関跡から直線距離でおよそ800mの下方に太平洋を望む。關田の濱の辺りか。 | 時期が少し遅いと思った旅だったが、見事な桜が出迎えてくれて満足。 | ||
勿来文学歴史館。歌枕「なこそ」にちなむ展示と江戸時代の民家を模した展示の二つの常設展があった。歌枕として名高い「なこそ」は多くの人が歌に詠んでいる。 館の資料から歌枕を詠み込んだ数首を拾い出す。 をしめども とまりもあへず 行く春を 名こその山の 関もとめなん 紀貫之 都には 君に相坂 近ければ なこその関は とほきとをしれ 源頼朝 あづま路と ききしなこその 関をしも 我が故郷に 誰かすゑけむ 宗良親王 あつか路や しのぶの里に やすらひて 名こその関を こえぞわずらふ 西行 実際に勿来の関を通ったのは誰だったのだろう。義家は確かだろうし、茂吉や節は言うまでもない。芭蕉も頼朝も西行も奥州に足を踏み入れてはいるが、いずれも白河越え。徳川光圀、西山宗因、吉田松陰もここを訪ねているそうだ。水原秋櫻子には「断崖に勿来の濱は百合多し」の句がある。そのほかにも多くの人が訪れているのだろう。 |
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山の中に突如現れた寝殿造の邸宅。寝殿を中心に東西の対屋を透渡殿でむすび、広い南庭には池と橋を設けて。今にも十二単の美女が現れそうだが、ここは「吹風殿」と名付けた体験学習施設だって。 | |||
左リ 古關蹟 八町三拾二間……。 海沿いの陸前浜街道から關への分かれ道の關田に建つ。 |
潮風や……。どうやらどなたかの俳句のようだが、碑面の文字は薄くて読めない。どなたか教えてください。 | ||
勿來關 ものゝふの過ぎしいそ回のあだなみを なこその關とひとはいふなり 節 長塚節は明治二十九年の秋勿来の關を訪れて詠む。 |
平の町より平潟の港へかへる途上磐城關田濱を過ぎて 汐干潟磯のいくりに釣る人は 波打ち來れば足揚て避けつゝ 節 |
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長塚節は明治29年と明治39年の二度平潟を訪ねている。平潟に泊まり、關田へ度々足を運んでいる。その時の歌をいくつか。 こませ曳く船が帆掛けて浮く浦のいくりに立つは何を釣る人 こゝにして青草の岡に隠ろひし夕日はてれり沖の白帆に 朝来微雨、衣ひきかゝげて出づ、平潟より洞門をくゞれば直ちに關田の濱なり 日は見えてそぼふる雨に霧る濱の草に折り行く月見草の花 |